この悲しみを流せる雨はあるだろうか。 この憎しみを流せる雨は降るだろうか。 髪が真っ赤なこと意外に 俺が普通の人間とちがうことを 最初にきがついたのは母さんだった。 父さんは郵便屋で、社宅に住んでいた俺達家族。 やっとはいはいができるようになった俺は 母さんが目を放した一瞬のあいだに ベランダの柵から落ちた。 10階の高さからの転落。 普通なら即死のはずである。 サンダルをつっかけて、あわてて地上に降りてきた母さんは 必死に茂みや植え込みの間をかきわけ俺をさがした。 けれどどこにも俺の姿はなかった。 父親を含め、この話を聞いた多くの人は 母さんを気が動転していたのだろう、気のせいだとたしなめた。 まさか、子どもが宙に浮くはずなどないと。 しかし、小学校にあがるころには、浮遊は俺にとって 息をすることとなんら変わらない動作になっていた。 常識的な父さんにおしえられ、 俺がこの力を人前で披露することはなかった。 だからおどろいた。 交通事故で両親がしんだとき、 身寄りのなかった俺を引き取ってくれた施設の所長が、 どうして俺の力のことをしっているのか。 父さんの昔の友人だというその男は、 やせていて、女の人くらいの背だった。 肩くらいまで伸びた髪はもちろん、 黒ウサギのファーがついたエナメルのコートも かけている大きなサングラスも、乗ってきた車さえ真っ黒。 男の人だとはわかっていたけど、女みたいにきれいな人だなと思った。 でも俺は、男の人だったけど、所長の後ろに彼の影みたいに ぴったりくっついている背の高い男の方がきれいだと思った。 所長はその人をルルイとよんでいた。 所長は俺に質問した。 空を飛ぶ他に何ができる? 俺は正直にこたえた。 何も。  父さんにとめられてたから何もできない。と 途端に所長は俺の左頬を平手でひっぱたいた。 いきなりの衝撃にまっしろになった俺に 所長はこうはきすてた。 おまえの父親は価値のわからん人間だな 俺は学校の成績はそんなによくなかった。 だけど、このとき所長が父さんを馬鹿にしたのは すごくよくわかった。 気がついたら俺は体の底から怒っていた。 いままでだしたこともない力があとからあとからふきだしてきた。 自分でもおさえられないくらいだった。 そんな俺をみて所長は満足そうに首を振った。 すると今まで動かなかったルルイがまえにでてきて 宙に浮かび所長をにらんでる俺のこぶしをそっとにぎった。 琉涙がやわらかい動作で俺のこぶしをとくと、 俺の全身のちからが、ゆっくりほどけていった。 地上にたった俺は所長を見上げ、言ってやった。 あんたを殺すぐらいはできそうだ。 所長はなおいっそう満足そうな顔をして、 エナメルのコートをひるがえし、黒い外車にのりこんだ。 琉涙は俺と車にのるらしく、 所長を車まで送ると、無言のまま俺を誘導した。 施設へ向かう車のなかで、俺は覚悟をきめた。 いつか あいつをぎゃふんといわせよう と。 act.5 RED fin to be…