DOLL

煌びやかな街
明るい光 香しい花の香り 踊る水模様
大きな空に 奏でる音楽

皆があたしをみて心躍らせた

長くてサラサラの髪も、水面のようなガラスの目も
細い身体をおおうシルクのドレスも
全部あたしを彩る飾り

華麗なダンスをみせましょう
優美に歌をうたいましょう

あたらしいくつももらったわ
皆があたしに笑顔をくれた

世界があって
その真ん中にあたしがいて

だれでもいいの
あたしを大切にしてくれて
愛でてくれる人がいればそれで。

しあわせだった
うかれてたの あたし

きれていく糸の音さえ聞こえないくらい
ほら ひとつ  また ひとつ


なんて粗末な思考回路
わがままで贅沢 欲張り

そして、訪れた結果がこう。

あたしの手元には 何もない
最初から 何もなかった。

未来 栄光 愛撫 歓声

ほしくてほしくてたまらないなら手をのばせばいいのに
大きな塔の中 誰かがきてくれるのを座ってまっているだけ

まってもまっても誰もおとずれない。
だって、いすのまえの扉はとざされたまま。
だれもがあたしの存在にきづかずに通り過ぎていく。

高い窓にある小鳥だけが あたしをみつけ
その滑稽な操り糸をあざわらう

切れた糸は もうあたしをうごかさない
うごかないあたしは 埃にまみれ

小さな空を仰いで切望するのでしょう

でもね、糸じゃないの
たとえ全部の糸が絶たれたとしても あたしは動いていける

ないのは あたしを想うあなた
千切れた糸を繋ぎなおす あなた

あの時 あたしを動かしていたのは たったひとつ

あなた、だったから。

でももう待ちはしない
床にだらしなく垂れた糸を全部そこに残して
たちあがろうと思うの 自分の足で

自分のちからで 今度はあなたを動かすために