『Remember -白夜誕生秘話-』


最後に見たのは真っ黒な世界。


僕は 長い間その暗闇にとらわれていた。
何もみえず、何も聞こえない。
暖かさも、冷たささえ 何も感じず
時間からも 見放された場所。


揺り起こしたのはあいつ。

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僕が二回目に生まれたのは水槽の中で
あいつがこちらを見ていた。


あいつが霊体をさわることのできる手袋を開発し
最初にみつけ、捕まえたのが僕の霊体だった。
その後、僕の霊体は特殊なクリアケースに安置され
肉体が見つかるまであいつの部屋の一郭を担った。


しばらくして
あいつは 僕の肉体だったものをみつけてきた。
ほんの一欠片の骨と数本の髪の毛をコンピュータにかけ
遺伝子情報からバーチャルで僕の姿を復元した。

画面上の僕をディスクに移すと
僕にもう少しの辛抱だからと声をかけ
あいつは奥の部屋にこもったきり、でてこなかった。
何日も 何日も…

その間 僕はデスクの上におかれた白い骨をみていた。

たくさんの時間が過ぎた。
太陽と月が 何回も顔をだしては沈んだ。

僕はずっと自分の白い骨をみていた。
幸福とはほど遠いその姿ですら、僕には羨ましかった。


突然
轟音を掻き鳴らしていた奥の部屋に沈黙が訪れた。
ゴトンと何かが床に落ちる音がして
それから 本当に何も聞こえなくなった。

何時間たったのだろう…
僕にはそれを知る術はなくて ただ
ただ 奥の部屋をみつめることしかできなかった。

焦燥から 骨への羨望はすっかり薄れていた。



あいつ 死んだのか

その発想にたどりついたのは随分あと
翌朝のまだ薄暗いころだった。

死ぬのか?
僕をここに閉じこめたまま
生への執着をこんなにも捨てきれない僕を
あの骨の前に残して あんたは死ぬのか?

もう少しの辛抱だから

あんたがああ言ったから
あんたが僕の身体をみつけてくれたから
きっと 

そう信じて待っていたのに こんなのって



  いつまで待たせるつもりだよ
  はやくでてこい馬鹿野郎
  でてこい
  でてこい
  でてこい
  顔みせろよ
  なぁ 頼むから

  聞いているのか
  悪い冗談はよせよ
  僕のために死ぬな
  死人に命やるなんて聞いたことないよ
  後生だから



想いの塊である僕だけど 想いはあいつへ届かない。
だから身体が欲しかったんだ。
助けてくれてありがとう。
暗闇から僕を導いてくれてありがとう。
一言 そう言いたかった。 

僕のひと筋の光








キィ

小柄な身長
華奢な背中
のびきった髪
やせ細った腕
頬の紅い刺青
くもってひび割れたゴーグル
体中の小さな傷
緑と金のガラス玉

そんな小さな身体で
そんなにやつれて


コツ

皮の黒手袋を掴んで
僕の骨をポケットへ

コツ

明け方の薄暗い光の中
ゆっくり僕に近づく

カタ

僕の入ったケースを開けて
僕を抱える

あいつは言った
ほくろのある口元をほころばせて

 遅くなってごめんあともうほんの少しの辛抱だから

朝日が昇る
瞳があったら涙をながした。

 五月蠅い 馬鹿野郎。
 もう二度と信じないからな。

後光がさすあいつに、口があったらそう悪態をついた。

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僕が二回目に生まれたのは水槽の中で
あいつがこちらを見ていた。

目を覚ました僕にあいつは
おまたせとただ微笑んだ。
そして それから長い眠りについた。

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「ここか 147m…うひぇ〜高ぇの!」

「誰が建てたんだろう…バースの問題とかどうやって…」

「建築士ごっこはいいょ。白夜」

「ごっ…誰がっ」

「それより俺早く部屋行って飯喰いたいv白夜、飯!!」

「…悪いけど 荷物は運んであるけどまだ食材がないんだ」

「はっ?なんで?死ぬシヌマジ死ぬっ腹減ったーっ」

「わかったからっみっともないからやめなさいっ///」

「おっ♪へんな生き物(Mr.藻)発見ーv」

「ちょっ歩荏?君どうせ迷子になるでしょっ…待ちなさ…」

「飯できたら戻るからー♪っ」

「戻ってきた試しないだろお前っ おいっ歩荏!!

 …っもう 知らないからな…っ」



あれから三年。
色々事情があって屋敷で暮らせなくなった僕らは
ここ147mを新たな新天地に決めた。

好奇心旺盛なあいつを見るのは大変だけど
僕はあいつの行く道を隣で支えようと思う。


−僕が あの日の気持ちを忘れない限り−












               −end−